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2017/08/15

【演劇】ミュージカル『にんじん』鑑賞

年に4回ある都民半額観劇会に申し込み、抽選に当たったので新橋演舞場へ『にんじん』観劇。
原作は、児童文学のジュール・ルナールが自分の子供のころの思い出をもとにして書いた、半自伝的な物語。
主演・大竹しのぶ。
大竹しのぶの舞台に興味があった。

(以下ネタばれありますので、知りたくない方はすすまないでください)

舞台はフランスの片田舎。
『にんじん』には、赤毛でそばかすの少年が主人公で、赤毛のため、家族からも名前を呼んでもらえず、「にんじん」と呼ばれている。
にんじんも、父や母のことを、「ルピックさん」「ルピックさんの奥さん」と呼ぶ。

母には兄弟で一人だけ、いつも雑用をいいつけられ、大好きなメロンももらえず、悪いことがあるとすぐにんじんのせいにされ、激しく叱責され、ぶたれたりする。
家族は、もともといい家系だったらしいが、戦争から帰った父もろくに働けず、お金に苦労してる様子。
全体的に、ギスギスしていて、夫婦の間も会話がない。

誰にも愛されていない、寂しさと苦しさから、何度か自殺をはかろうとするにんじん。

これが子ども向きの話なのかなと思ってしまうくらい、テーマは重くて、暗い。
家族だけではなく、村の人からも、にんじん、嘘つき、怠け者、と悪口を言われてる様子。
前半は、そんな状況で終わる。

大竹しのぶのにんじんは、14歳のふてくされた子どもの様子、死んだネズミや蛇をポケットにいれて、いじわるな兄に反撃するニヤニヤした感じが、可愛らしい。思ったより小柄な人だった。
昔から、どこか乗り移ったような演技をする人だと思っていたが、にんじんもそんなふうだった。

お手伝いアネット役の真琴つばさは、にんじんに死んだネズミを握らされても、動じない明るい人柄。
家族のギクシャクに気づきながらも、にんじんに心を寄せる様子。
真琴つばさは、セリフ回しも歌も、踊りも、宝塚のトップスターというのはやっぱり凄いな! と思わされた。
声の響き方、届き方、歌の力強さ、が抜きんでている。コミカルな芝居も上手。

名づけ親役の今井清隆さんは、めちゃくちゃ声がいい。セリフも歌も聞きやすくよく響き、うっとりするイケボー。

ルピック夫人のキムラ緑子は、にんじんを虐待している一方、虐待をやめられないことに苦しんでもいる。
冷たい夫や、傾いた家計、家柄だけはいいので体面をつねに気にする生活に疲れ、イライラしている。
姿勢の良さと、気位の高さ、冷たい神経質な役どころにぴったりはまる。

兄のフェリックス(中山優馬)は、母からの溺愛を受けつつも、いろんな狡さを身に着け、にんじんに罪をなすりつける嫌なやつだ。物語の最後まで改心することはなく、それでも彼も冷たい家庭に不満を持っている。
ジャニーズのアイドルもとことん嫌な役どころで頑張るのだね。

後半、誰かがにんじんを救うのかと待っていると、「姉の結婚式に出るな」と命令したのにやってきたにんじんをしかりつけた父だった。
父もまた、常に世間体を気にして、「にんじんが自殺したら、世間様になんといわれるか」と口にするようなダメ親だ。
しかし、にんじんが、結婚式から抜け出して、また首吊り自殺しようとしたところを、止めた。
「お前の心に寄り添えなかった」とやっと正直に告白する。「お父さん」「フランソワ」と呼び合う。
この人も闇を抱えていたのだ。

甘やかされていた兄のフェリックスも、家や田舎に飽き飽きして、家の金を盗んでパリに家出する。

にんじんが出した答えは、悩んだり、不幸だと思っていたのは、自分だけじゃなかったと知ったこと。
その中で、がんばってみようと、自分で決めたこと。
休暇が終わり、また一人、寄宿舎生活に戻るところで、舞台は終わる。

意外とテーマが重くて、あまりいい人がでてこなくて、それぞれの人間の苦悩みたいなものを描いている作品だった。
子どもを愛するには、まず大人が幸せじゃないといけないのかもと思ったり。
分かっていても、虐待してしまう母親からは、離さなきゃいけないとか。
この作品を子どもが見たら、どんな感想なんだろうな。にんじんに同情して、にんじんを応援したくなるのだろうか。
にんじんは、いつも母や兄からぬれぎぬを着せられていたが、自身では盗んだり、嘘はついてなかった。
周りが信じてなかっただけだ。
本当のことは、隠れていることがあるね。それをちゃんと見た目だけで判断してないかな。
そんなメッセージも、赤毛とそばかすにはあるのかもしれない。

原作も、あらためて読んでみたいなと思った。

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