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2017/03/24

「秒速5センチメートル」は缶の飴だとおもった。

新海誠監督の2007年の作品「秒速5センチメートル」をみた。
各20分ほどの3本の連作短編アニメーションで、花びらが舞い散る速度という意味と、二人の思い出の日が3月4日であることから、3月に放映したTV局のセンスはナイス。

これは遠野貴樹という男の子のずっと忘れられない思い出に縛られてる片思いの記録だ。
ストーリーもいろんな感想もたくさん出ていて、「素晴らしい」、「泣ける」から、「きもい」、「ヘタレ男子」まで受け取り方がさまざま。

わたしは、うつくしいと思った。
その愚かでまっすぐで純粋な恋心が。
本人は、苦しくて気がついてなくてもがいたままだけど。
それを過去に手放したものから見ると、懐かしくて、すっぱくて、切なくて、きれいだ。

物語の世界では、貴樹をそのまま縛り付けていられる。
でも現実に生きている貴樹は、秒速5センチメートルくらいの速度でも、変わっていくだろう。
いろんな失敗から学ぶんだろう。

思い出は、いつか飴になる。
思い付いたとき、缶からころっと掌に取り出して、ほうばってなめるんだ。
それはバカみたいにすっぱくて甘いんだ。
でもやがてとけてなくなる。

飴をもってるのがうれしいんだ。
きもいといわれようと関係ない。
大事な思い出は、捨てなくたっていいでしょ。
自分は女だから、男の子もこんなふうな思いを持っているんだということがなんか嬉しかった。
そしてこの作品が、アジアのみならず、イタリアの映画祭で賞をとったことも。

秒速5センチメートル 予告編

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2017/03/22

【装丁】遊子五行歌集 『薔薇色のまま』

こもろ五行歌の会代表であり、草壁焔太五行歌選歌集『人を抱く青』の選者でもある、遊子(ゆうこ)さんの歌集の装丁を担当した。
遊子さんには、3人のお子さんがおられ、それぞれ同じ年の同じ月にお孫さんが生まれるというミラクルなご縁。
彼らが絵が描けるようになってくると、手作りのお手紙やバースデーカードを送ってくるようになった。
それらを装丁のモチーフに使えたらと、たくさん見せていただいた。
それぞれの特徴が生きてる線や色のものを選んで、カバー、表紙、中の本文の挿絵にと使うことになった。
また、ご希望のイメージのサンプルとして、白地ベースに赤がアクセントになっている本もお持ちくださった。

S20170322_16_06_20

色味は一部、変更してアレンジしているが、ラインは、そのまま生かしている。
子どもがマジックでぐいぐい描く線というのは、いいものだなぁと思った。
カバー表(左側)のお花はえまちゃん。
オリジナルは紫だったが、赤に変更。
カバーの裏側は、ゆらちゃん。
ゆらちゃんはカラフルな色彩感覚の持ち主。シールと組み合わせて、風船のようなたまをいっぱい描いていた。
夢があっていいなと思い、カラーバランスを少々調整して使わせていただく。

今回、帯がなかったので、版面全部使えてのびのび配置できた。
タイトル文字は、遊子さんの尊敬する草壁焔太先生の墨字。

表紙のハートのモチーフは、えまちゃんがカードに切り絵で貼っていたものからアウトラインをもらって、デザイン化している。薔薇の花びらのイメージ。
『薔薇色のまま』というタイトルは、夫への愛の歌からとられている。
学生時代からの色あせない思いを、表紙の赤とハートに託した。

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扉もおそろいのハートを舞わせた。表紙と同じように、ほんのりグラデーションを入れている。
見返しはおもいきって白。扉回りは赤白だけですっきりさせた。

3人目のお孫さん、りゅうくんは、線描がお気に入り。おもしろいユニークなものをたくさん描いていた。
編集のお気に入りを3枚ほど挿画としてつかっている。
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遊子さんは娘婿のために、五行歌をスペイン語に訳して読んでもらいたいと願った。
娘さんが翻訳し、大切な数首にスペイン語表記が入ることになった。

S20170322_16_58_20

この歌集には、家族の手や存在がこめられている。
うつくしい70代へのスタートにふさわしい一冊となった。


【書誌情報】
著者:遊子(ゆうこ)
書名:『薔薇色のまま』

四六判・並製・262頁
定価1,200円+税
発行日:2016年3月25日
ISBN978-4-88208-146-3

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2017/03/01

【装丁】 河田日出子五行歌集 『机と椅子』

久しぶりに、自費出版歌集の装丁を担当した。
著者の河田さんは、中学生の頃から詩作をはじめ、仕事をしながら自分の働いたお金で、30歳で大学へ進学された。
三十代から意識して文芸と向き合い、小説や随筆、詩、五行歌と創作活動を続けていらっしゃる。

タイトルは『机と椅子』。古い詩歌の師であり同朋である草壁先生がつけた。
勉強家でまっすぐな河田さんにぴったりのタイトルである。
装丁のご希望をお聞きした時にでてきたのは、「(同じ大きさできちんと並んだ)水玉」であった。そして「黄色」が大好きと。
この2つの要素を中心にデザインを考えた。

S2017

表紙や扉に「机と椅子」のモチーフを入れたいとあれこれスケッチしていくうちに、イニシャルになることに気付いた。Hideko KAWATA、hKのイニシャルを机と椅子に組み込んで扉にした。

S2017_2

表紙は、後ろの下側に小さ目に扉と同じ「机と椅子」マークを。

S2017_3

色数をしぼり、黄・緑・白・黒で構成した。
著者の色の好みを尊重して、明るくはっきりとした印象の春らしい本になった。
やはり好きな物、というのは、その人自身をどこか投影しているものなのかもしれない。

巻末のアルバムページに収められた、若かりし著者の見るものをはっとするほどの美貌に感心しつつ、この文芸への真面目な取り組みや、夫君への愛の歌がさらに深みを増す気がした。
自分を見つめる正直な心の歌の著者は、これからも「やはり、死ぬまで書くべきなのであろう」とはしがきに綴られている。
私たち、後輩にその背なをしっかり見せてくれながら、この道を歩まれることと信じる。

【書誌情報】
著者:河田日出子(かわた・ひでこ)
書名:『机と椅子』

四六判・並製・246頁
ISBN978-4-88208-145-6
定価1,500円+税
発行日:2016年3月13日


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