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2017/02/11

【講演会】第50回造本装幀コンクール受賞者「受賞作」を語る

本日2月11日(土・祝)に、トッパン小石川ビルにある印刷博物館にて、トークショーがありました。
事前にwebで予約、会場につくと80名満席との貼り紙。

第50回造本装幀コンクール受賞者の3名の装丁者が「受賞作」についてお話ししてくれるとても興味深いイベントでした。

最初のお話は、アートディレクター辻中浩一さん。受賞作品は経済産業大臣賞『サイエンスペディア 1000』

かわいらしいスライドショーを見せてくれながら、アイディアの推移、ダメ出しされたこと、打ち合わせながら装丁の落としどころを決めていく様子を丁寧に話してくださった。
中身が固い内容なのだけど、デザインはもっとやわらかいものにしたいというコンセプトどおり、カラフルで楽しい雰囲気の装丁。
辻中氏が出版社側と見せてくれたやりとりは、自分の仕事にとても近くて親近感がわいた。
心に残ったメモは、

ウルためには何でもする

二人目のアートディレクター高岡一弥氏は、話題沸騰だった「春画展」の分厚い目録にもなった「春画」のアートディレクション・企画・編集をされた方であり、この本で東京都知事賞を受賞された。

春画展の開催そのものもあちこちで断られ、ポスターでもJRの倫理規定などで3回ダメ出しされたらしい話など、いろんな賞を取られたすごい方なのだが、とてもきさくで博学でお話も楽しかった。
一番メモをとったのも高岡氏の話。
例えば

発想がないときは方法論を持つ

汗と涙と努力が好きなんです。

本の中に猫だましを仕込む。

最後の選択で頼りないものを選ぶ。

話し出すと、エネルギッシュで、本作りの情熱と愛情が伝わってきました。

最後が、グラフィックデザイナー加藤勝也氏。
審査員奨励賞渡邊加奈子 『春の旅』
限定50部という手作りの本。(もう品切れのようですね)
紙を買ってくることから、印刷、製本まで全部自分たちでやったという手作り感いっぱいのロマンチックな本。
うすい箱に入っていて、そっとめくると版画と詩が並んでいます。
加藤氏もスライドで、装丁・造本の工程を丁寧に説明してくれました。
こだわりの12Q、黄金比、フォントの選択など自分らしい作品を丁寧に作られている様子がわかりました。

3名の個性がそれぞれ違っていて、だけど本作りを愛している様子が伝わってきて、おそらく会場に集まった聴講者も本や本作りが好きな人たちで、ときどき笑い声が起きたり、なんかもう、すてきな空間で幸せでした。

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2017/02/08

【映画】「人生フルーツ」鑑賞

「人生フルーツ」というドキュメンタリー映画がよい、と耳にして調べてみると東京でも2館しかやっていない。
日の出町と東中野だ。

ポレポレ東中野の映画館のサイトをみても、予約システムはなさそうなので、先週の土曜日にとりあえず向かってみた。
入り口に(補助席ふくめ)「完売です」と赤字で書いてあった。がーん! 座席数も多くないようで、当日に当日1日分の切符を買う(受付をする)珍しい仕組み。100席くらいだろうか。
係りの人に聞くと、1時間くらい前に並んでいただくと、おはいりいただけるとのこと。
夜21:00の回ならまだ空いてるといわれるが、現在時刻は16:05である。あきらめた。

そして本日、リベンジに。
作戦はこうだ。
まず午前中に、チケットをゲットする。その後ランチ、パソボラに行き、16:00前に切り上げて、ポレポレ東中野へ駆けつける。予約番号は1番だった。よっしゃ。
16:30の開始の回は、15分前から受付番号順によばれて入場、全席自由。
はやい受付番号でも、遅くいったら、補助席の可能性もあるのでドキドキした。

そこまでして行った価値があったか。
YES.あったと言えよう。

人生フルーツ公式サイト
あらすじなどはこちらで。

90歳の津端修一(つばたしゅういち)さん、87歳の英子(ひでこ)さん。
まあ、二人ともよく動く動く。庭仕事、畑仕事、台所仕事、一日中立ち仕事で働いている。
庭や畑、家の中も、愛らしい手作りのものがたくさんあって、心が和む。
お2人がとてもチャーミング。
とくにしゅういちさん!

彼女はぼくの最高のガールフレンド
90歳でこんなこと言える?  いつものように夕食を食べた後、きちんと「おいしかった」と言える? 妻に対して、思いやりがある方だなぁとうっとり。 もちろん英子さんも、全部修一さんがいいと思うように、何でもやって、それが自分の幸せにつながる、と。

そしてなんどとなく繰り返されることば。

ゆっくり、コツコツと

建築家の修一さんが、愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの計画にかかわり、自然と共生する設計をしたのに、土地をめいっぱいつかうびっしり乱立した、画一的な住宅建築へと舵を切らされた。

その忸怩たる思いが、おなじニュータウンの一角に300坪の土地を買って、木造平屋の家を建てさせた。
山の中でなく、造成地の中で、雑木林と畑でぬくもりのある土地に変えた事。
これは修一さんの反旗だったのだと思う。
穏やかで静かな反旗。

裏山にどんぐりを1万株植えて、はげ山が緑の山になったこと。
何十年も育てている果樹にたくさんの実りがなること。
落ち葉を蒔いて、肥料にしてること。
時間をかけて、コツコツ続けていく生活。営み。

二人のドキュメンタリーで終わりと思いきや、思いがけない展開もこの映画に描かれていた。
それはここでは言えない。
あまりに崇高すぎて。

この映画を見て思った事は、人生の楽しみは、作ることだと。
自分の手で作った物が、生活の楽しみになり、潤いになり、豊かなものにするのだ。
今までの自分の暮らしを振り返ってもそうだった。
料理でも、縫物でも、編み物でも、工作でも。

早いこと、簡単なことが良しとされる現代社会に、心が貧しいのは、自分で何も作ってないからだと思うのだ。
美味しそうに見えるコンビニ弁当の夕飯はなぜ物足りないのか?
なんでもかんでもGoogleで調べて、なぜ自分の頭で考えないのか?

それはたぶん、時間がないから、簡単だから、失敗しないから。

時間がかかること、手間のかかることが、「こつこつ、ゆっくり」の正体だ。
失敗したり、後戻りしたり、迷う時間もそこには入ってるはず。

心の栄養は、時間も手間もかかるのが当然だ。
だって、いちばん大切なものだもの。

ほんとはみんなわかってる。
でも面倒くさいお化けが背中に張り付いてるんだ。
「面倒くさい」は、一番楽しみを奪うことばだと思う。

あとね、みんな疲れている。
理想の生活を夢見ても、ため息しかでないんだろう。
だから、できることから、ゆっくり、こつこつと、なんだよね。
心には、最高の栄養をあげよう。
そんなふうに思った。

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