【読書メモ】 『田舎のパン屋が見つけた「腐る」経済』
この本を何で知ったのか思い出せないが、何かのレビューを見て興味をもって図書館の予約をしておいた本だった。かなり待ち行列は長かったと思う。
「経済」がつく本を読むのはほとんどない私も、「これは面白い!」と思ったので、紹介したい。
作者は、30代でパン屋をめざし修行を始めるが、「天然酵母パン」と名乗っているものの実態、利益第1主義の商売に疑問を感じ、本物の「自家培養の天然酵母パン」を作るために、東奔西走する中、地産地消を大切にした「循環型地域社会づくり」の道を見つける。
店の経営理念は、「利潤」を出さないこと。
マルクスの『資本論』の中に出てくる、パン屋の惨状。パン屋修行の中で、「商品」「価格」「交換価値」についての学び。「労働力」を切り売りしないために、「生産手段」を持つこと。
「自家培養の天然酵母パン」は手間暇かかる。その分、高い。でもそれは正当な価格なのだ。
それを支払ってもらうことで、よりよい品質のものを提供し続けることができる。
苦労する中で、目標が一緒の仲間たちも連携して、支え合う。
大人になるということは、自分で稼いだお金で生活できることだと思っている。
問題は、そのお金をどう使うか、何に消費するのかがとても大事だ。
オンラインゲームに課金するのか、体にいい食事のために使うのか。
それは、人生の選択そのものだ。
この本を読んで、「経済」という言葉がどこか堅苦しいと思っていたが、自分の「収入と支出」を選び取ることなんだなと思った。何で稼ぎ、何を消費する、そこで何が循環するのか。
先日読んだ、『フランス人は10着しか服を持たない』(読書メモ参照)も、同じくライフスタイルを提案した本だった。
シック家は「守り」、渡邉さんは「挑戦」だと感じる。
ムッシュー・シックの一族は、貴族の末裔だからこそ、豪華な調度品や食器、住宅を「すでに手に入れていて」、伝統を守り、多くを欲しがらず、厳選した良いものを取り入れて、毎日を楽しむことができた。
渡邉さんは、学生時代の放浪からはじまり、まさに「裸一貫」からのスタート。
シック家は、豊かに暮らしているけれど、どこか自己完結している。
渡邉さんは、菌を育て、土を育て、地域を活性化させ、人も育てようとしている。
2つの「豊かな暮らし」を比べてみて、どちらも大変興味深かった。
自分は、何をどう選んでいくか、どんなライフスタイルをつくっていくのか、読者に問いかける、素晴らしい本であった。
【おまけ】
ちなみに渡邉さんと奥さんがやっている「タルマーリー」は2015年6月鳥取県智頭町智頭町に移転ししている。ホームページをみると、パンの香りが漂ってくるよう。こだわりのいろいろも読めるので、おすすめ。
あぁ〜美味しいパンが食べたくなる〜!
【書誌情報】
著 者 渡邉 格(わたなべ・いたる)
書 名 田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」
判 型 四六判・上製・234頁
出版社 講談社
ISBN978-4-062183895
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