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2012/09/21

【読書ノート】『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー(ややネタばれ注意)

アガサ・クリスティーがメアリ・ウェストマコット名義で書いた、小説『春にして君を離れ』がこれすごいよ、と家人にすすめられ、読んでみた。
クリスティーが別名義で書いたとおり、ストレートな推理小説ではないが、どこか恐怖を感じさせるところがロマンチック・サスペンスといわれるゆえんか。

優しい夫、よき子どもに恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、末娘の病気見舞いを終えてバグダッドからロンドンへ帰る途中で出会った昔の友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱き始める・・・女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。(早川クリスティー文庫カバー解説より)

砂漠のレストハウスで交通トラブルで数日間足止めされる、ジョーンは、ありあまる時間の中、自分の心の奥や頭のすみに言われた言葉などが浮かび上がって、いいようもない不安にかられる。

ほんとは夫、ロドニーが愛してるのは、あのみすぼらしいレスリーじゃないの?
農場経営をむりやりあきらめさせて、弁護士をつがせた夫は、疲れていやになってるのでは?
わたしが留守にしたら、うれしそう?
わたしが手伝いにはるばるバグダットまで行ったけど、娘夫婦はほんとに感謝してくれたの?

ミセス・ジョーンのやってきたことは、そんなにひどいとは思わない。
こんな人はたくさんいると思う。
でもどこか人を思いやることをせず、自分勝手で、自己満足な行動ばかりの人は、本人が気がつかなければ満足した毎日だけど、まわりはうんざりしているかもしれない。
ミセス・ジョーンは、いろんな人の言葉の端々に、そのシッポを見つける。

ミセス・ジョーンの自問自答は、読者にも突き刺さっている。
おまえの行動は、みんなに歓迎されているのか?
自分勝手なのではないか?
家族を愛し、愛されているのか?
その親切心は、ほんとうに相手のためなのか?

この何気ない物語の怖さは、読者自身に、ほんとは聞いてみたいけど、答えを聞くのが怖い問いを突き付けてくることにある。
その問いに、全肯定できる人にとっては、あまりおもしろくない話かもしれない。
非常に読者を選ぶ物語といえる。また、読者の経験や、育った環境でも大きく感想が違うだろう。
ショーンは、どこにでもいそうな主婦で、自分でもあり、自分の母親のようでもある。
だからこそ、ショーンの不安や恐怖は、自分のものとして感じられるのだ。

通常の推理小説では、どんなに残酷な殺人があっても、しょせんお話という立場で読めるのに、この小説は、自分が実は加害者じゃないか? という不安な気持ちになるところが、恐ろしいし、特殊な小説と言える。

解説の栗本薫氏の夫は、「ロドニーはいやなやつだ」と言ったと書いてあったが、わたしもロドニーのことがよくわからない。彼女をいまの彼女にしていったのは、夫のロドニーにも責任がある。
途中、「結婚は契約だ」と娘に諭すシーンがある。宗教上の理由で、簡単に離婚できなかったのだろうか。
彼を不幸せにしてるのは、彼自身だと思う。そこがなんとなく理解できない。
ロドニーの優しさと残酷さも読後感を苦いものにしている。


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2012/09/17

小諸への旅-観光編

連休の小諸の旅、こちらは観光中心のレポです。歌会編はひとつ前の記事になります。

まずはお昼ですが、「やまへい」というおそば屋さんに連れて行ってもらいました。
水車小屋の石臼でそば粉をひいてるとのこと。
建物も古民家ですてき。
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めずらしいものを、と勧めてくださったのが、野沢菜のてんぷら。塩味がついてるのでそのままいただけます。おいしい! これはお家でもできそうですね。
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こちら、もうひとつのお勧め、そばいなり。油揚げの中に少し酢のはいった出汁をからませたそばがぎっしり。中身みせたくてかじりました。お見苦しかったらごめんなさい。初めての食感!
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せっかくだからと、よくばりのそば定食セット。こだわりのおそば、とってもおいしかったです!
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お次は、懇親会場の島崎藤村が足しげく通った宿、中棚荘別邸、江戸時代の古民家を移築したはりこし亭(文化庁・登録有形文化財)。
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うっとりの、はり。
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本日のめにゅう。
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上品な懐石料理なので、すこーしずつお料理が出るのです。全部並べるのもなんなので、一枚だけ、朴葉焼の一品を。
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こちらで、白ワインを2杯いただいたところいつもより酔いが回りやすくて、あれ疲れてるのかな?と思ったのですが、もしや標高が高いのかなと思って調べてみました。
小諸市、海抜600mもありましたよ! 普段わたしの住んでるところは、30mそこそこ。高尾山で飲んでるようなものです。山にいって地元の人は、耳が痛くならないと聞いて、やはり普段から鍛え方?が違うと感心したのでした。
ここまでが、土曜日。

日曜日は、山へ散策に連れて行ってもらえるとあって、車5台くらい19人で繰り出しました。
めざすは2000m近い、高峰高原! ひー! くねくね道を登りに登ってみれば、絶景が待っていました。
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たくさんの高山植物も花咲いています。ピンクのつんつんはヤナギラン。種がふわふわの綿毛をまとって飛んでいきます。
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ここの高峰高原ホテルでランチを食べて、その後小諸城址の懐古園へ。
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石垣が美しいです。

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藤村の「千曲川旅情の詩」詩碑を横に、水の手展望台より、千曲川をのぞむ。うつくしい!

本当は、もっと奥の小山敬三美術館へも行きたかったのですが、団体行動だったので時間がありませんでした。こんどゆっくりきたときは、ぜひ寄りたいです。
今回は、仲間とめぐる楽しい旅でした。たくさんお世話になり、感謝感激でした!


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小諸への旅-こもろ五行歌十周年記念歌会編

9月15日(土)は、こもろ五行歌十周年記念歌会ということで、遊子さんからお誘いのお手紙をいただき、初めて参加することにしました。
東京から佐久平まで上越新幹線で1時間半くらい。空気がひんやりと思いきや、意外と暑い。
駅でお迎えをいただき、お昼をすませてから歌会場、小諸市文化センターへ。

会場に入ると、たくさんの笑顔に出会う。
壁には、今日の参加者の作品が本誌の投稿歌から選んでくださり、壁一面にきれいに展示されていて、ちょっとしたサプライズ。
この展示が、あぐりの湯や他の会場でも展示してくださるとのこと。うれしい。
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草壁主宰、三好副主宰と、こもろの方以外の関東近郊、新潟、石巻から仲間が集まって43名。代表の遊子さんのお人柄やこもろのみなさんの魅力ですね。
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遠足気分、一人一人に手渡された楽しいおやつセット。やさしい心配りを感じます。
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演卓には、甘利さんによる見事な生け花が。赤いアンスリュームは、こもろの情熱を表現されたとか。ううむ! 生け花にもこういう表現ができるのか、と目が覚める思い。花器もかっくいい!
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黒板の下に並べられたのは、入賞や草壁賞の方への賞品の草壁先生直筆の色紙。
小グループの歌会はこもろの会員のみなさまが一席総なめ! こもろの歌会の実力に圧倒されました!

おみやげにいただいた、『こもろ五行歌の会十周年記念歌集』もすばらしかったです。
これだけの人数のゲストを迎える準備、ほんとうに大変だったと思います。初めて行ったのに温かく迎えてくださって、うれしかったです。ありがとうございました。
そして、十周年、おめでとうございました!!!

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2012/09/14

【装丁】酒井映子五行歌集『ひまわりの孤独』

本郷歌会の顔であり、女帝さまとついみんなが呼んでしまう才色兼備な酒井さんの五行歌集。
ついにでた! という感じ。
江戸っ子らしい、しゃきしゃきとした決断力、スケールの大きさが歌にも表れている。
その華やかさから想像できない、意外な生い立ちを知り、酒井さんの深みや厳しさの根っこを知る思いがした。

装丁にあたり、本を一冊お持ちになり、このようなひまわり色と黒でシンプルなイメージ、とおっしゃった。
少ない色数での勝負。帯は鮮やかな緑、とのリクエスト。
お話をうかがってから、いろんなひまわりを探し回る日々で、シルエット、切り絵のような、というイメージが浮かんだ。いくつか提案した中でも、一番すきっとしたものを酒井さんは選ばれた。決断が早いので清々しくお仕事させていただいたことも印象に残っている。

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カバーに使った紙は、NTほそおりGT。格子のエンボスが心地よい手ざわり。帯上、ちょこっと葉がのぞくように。

帯の全容とカバー裏側。
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今回カバーの紙は、色のついた紙を使用した。(裏も黄色い)。気付かれる人は気付くと思うが、バーコードのところの白窓をなくした。これは、カバーが黄色だったからできたこと。コントラストがとれないと、これはできない。とてもすっきりした背面でここはいたく気に入っている。(通常白は、印刷せず、地の白の紙色を残す。特殊な白インキもあることはある)

カバーをとった表紙。いわば長襦袢(笑)。
「黒い紙がいい」というリクエストで、あれこれ黒い紙を探して、マットでかつ少し地模様のようなニュアンスのある紙、エキストラブラック(コットン配合)を使った。文字は黒い紙でも色がでるよう金色インク。
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見返しがちらりと見えるよう撮影した。本体だけでも黄色と黒のコントラスト。少し和のテイストも添えたデザインにしてみた。

本扉。
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最初は黒で、と思っていたが、ちょっときつすぎる、という意見でグレーに。品よくおさまった。黄色との相性もよい。

カバー袖裏。
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今回、見返し紙とカバーを同じ紙にした。統一感がでて、一度これをやってみたかった!
黄色い世界にポイントをと思い、酒井さんの鴉の歌、梢の/鴉/つんと/天を向き/妥協の影もない、からイメージをいただいた。

酒井映子さんの凛とした生きる姿勢を感じながら、デザインを考えたお仕事でした。
9月下旬には本屋さんやネット書店にも並ぶと思います。ぜひぜひ!

【書誌データ】
酒井映子著 『ひまわりの孤独』 市井社(しせいしゃ)刊
四六判・並製・230頁 定価1,260円(税込)
ISBN978-4-88208-119-7 C0092


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2012/09/09

奈良美智:君や僕にちょっと似ているin横浜美術館

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横浜美術館の奈良美智展示に行ってきました。東急東横線で渋谷から直通、みなとみらい駅前です。9月23日までとあって、なかなか混んでいましたが、じっくり見てきました。

エントランスを飾るオブジェ「White Ghost」がお出迎え。
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あの青森県立美術館のあおもり犬を彷彿とさせるフォルム。でっかい。

最初のお部屋は、ブロンズ像。大きな頭がまるで仏像のように置いてある。「真夜中の巡礼者」は、しろい寝巻のそでをだらーんとたらしてうつむいている。まるで「お化け~」のポーズ。
頭は、ほとんどが少女の顔をしている。
生首のように並んだそれは、どこか死体の一部のようでもある。

アクリル&キャンバスや、紙&色鉛筆の軽いタッチのもの、ちょこっとメッセージの文字が入ってるもの。
デッサンから大きな作品に昇華した後も見られる。
それにしても、少女、少女、少女の形をした人物ばかり、これでもかと繰り返される。

以前のような斜に構えた小憎らしい子どものイメージは、少なくなって、口をひきしめて眼をうるませる少女が多い。なぜ少女という形をとるのかな、と考えたとき、一番自由に感情を外に出せる存在なのかなと思った。
心が、形にでる。
つまりは、少女の形を借りた、心象風景を描いて見せているのではないかと。

ミルク色の湖につかった少女は、どこか津波の被害者を連想させる。
両手に、双葉を持って、うつむく少女も。
感情の爆発と抑制。
この人の作品を、こんなふうに今まで見たことはなかった。
やっぱり、見に来てよかったと思った。

企画展のチケットで常設も見られるので、ちらっと見たら、意外に奈良さんの作品もあって、こちらはフラッシュなしなら写真OK.
いくつか。

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回天。そう、人間魚雷。

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よしもとばななさんの『アルゼンチンババア』の原画!
他にも何点もあった。企画展の作品は、2011年、2012年の新作ばかりなので、過去の作品との違いもわかって興味深い。同じようでちょっとずつ違っている。画家もいろんな社会の出来事に無関係ではないのだと思う。 

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今回のポスター。9月23日(日)まで。横浜美術館。

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2012/09/02

特別展「青山杉雨の眼と書」生誕100年記念

チケットをもらったから一緒に行こうと誘われて、東京国立博物館、平成館へ母と出かけてきた。

青山杉雨(さんう)といえば、日本の書の世界では知らない人はいないくらい有名な書家。
わたしが小学生から12年間習っていた書道の先生の師も青山先生だった。
1912-1993に亡くなられる直前まで創作されていたと聞くから、私が習っていた時期とも重なるのだなぁとわかる。そして、書をみれば、お手本にしていたわたしの先生の字にとても似ていて、妙な既視感にとらわれる。

この展示は、
1)青山杉雨の眼~中国書跡・中国絵画
2)青山杉雨の書
3)青山杉雨の素顔

と三部構成になっていて、書の展示ばかりではどうかなとちらっと思っていたのは見事に裏切られる。
青山先生は、中国にわたり書の研究や収集をされたそうで、そのコレクションが素晴らしい。
学びの中で影響を受けながら、自らの書を模索して作り上げて言ってるようすがわかって大変興味深い。
漢字としては、同じものなのに、筆で書くとなんと多くのものを語り始めるのだろう。

先日みた、タイポグラフィ展も少し思いだしていた。ひとつひとつの漢字をいわばデザインして自らの表現としている。
筆の入り方、自由闊達なうねり、どっしりした濃さ、粘り、生きものが這った痕跡のように。
筆がどう動いてこうなるのか、想像してみる。
いずれにしても、精神力、集中力がなければ、こんなふうには書けないだろう。

中国の書をすごいすごいと見た後、2)の青山先生のパートに行くと、さらに素晴らしくてびっくりする。
楷書、禮書、草書、と古典的正統的な腕をみせながら、創作文字のような挑戦、絵画的な表現とその幅の広いこと。
そういえば、うちの先生も鶏の漢字と絵画を合体させたような作品を書いていたのをみたことがあるなーと思いだす。青山先生の影響があったに違いない。

3)は青山先生の印や硯、書斎の再現などがあり、その資料の几帳面な整理の仕方にも感心。そしてなにより文房具のたぐいが美しく、実用と装飾を兼ね備えて並べられているのには舌を巻く。
青山先生が揮毫するVTRがあった。
机の前に立ち、すいすいと筆をあやつる。左手に煙草をはさんでいる。
筆の動かし方を見たかったので、VTRがあったのはよかった。

こんなに素晴らしい展示とは想像していなかったので、とにかく恐れ入りましたです。
9日まで、上野東京国立博物館、平成館。

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