【読書ノート】 よしもとばなな 『健康って?』
2009年に出た、『人生って?』の姉妹本みたいなスタンスですね。装丁がMIHOさんの切り絵でコーディネイトされています。ものすごく繊細で、レースみたい。それとも絵を切り絵風に加工しているのかな? ばななさんが、「描いてくれた」って書いてあったから。
『人生って?』は、Q&A方式で、人生相談的な質問に、ばななさんが答えるという内容だった。同じようなのかなと思ったら、今度はまったく編集が変わって、4人の身体のプロフェッショナルとのインタビューと、るなさんというがん患者の闘病記、となっている。
がんサバイバーの私にとって、健康というのは一番の人生のテーマだ。
健康という土台がしっかりあって、人生が豊かになると身に沁みて思うからだ。
ここで扱う「健康」の定義は、単に身体が病気になっているかどうか、ではなく、るなさんのような末期がん患者であっても、「健康じゃないということばがあてはまらない」気持ちになる。
何度も医者から絶望的な宣告を受けながらも、再生していく姿は震えるような感動をもらう。
この本を作るにあたって、この闘病記に、(2段組みフォントも小さくした上で)全体の本の文字ボリュームの半分くらい割いてスペースを提供した、ばななさんと編集者の信頼にもじーんとくるものがあった。
前後するが、中でもTaoZen代表大内雅弘さんとのインタビューがとくにメモしたい。
大内:瞑想について考えることですが、僕たちがやっているのは心を込めて何もしないとか。心を込めて体には役に立たないことをやるとかね。そういう贅沢なことなのかなって。・・・・(中略)何か今、効率とか役に立つとか。 よしもと:何かに結びつくとかが多すぎる。
これを読んだとき、耳が痛かった。仕事なら効率優先があたりまえなのだが、人生すべてじゃない。
大学生の娘に、「将来役に立つことを身につけろ」とつい言ってしまう。
それは間違ってないけど、それだけじゃきっとつまらない、ステレオタイプになっちゃう。だって、みんな同じように考えてるんだもん。違い、その人らしさの遊びって必要よね。
あえて、役に立たなくてもやりたいこと。それがその人の人生の重要なエキスかもって思った。
あと、大内さんからばななさんへの質問で、「作家としてたとえば心と体が健康になっちゃったら、作品できないんじゃないかって恐怖感」があるか? への回答で、
いや、ある程度考えぬいた後だったら大丈夫だと思います。・・・(中略)で、その考え抜いたことによって作家になってしまった後はそれを取り戻していく作業をしないと、逆にダメだと思う。今は取り戻す作業のさなかにいるのであって。いつまでも思春期ぐらいの圧がかかった状態のまま生きていたら必ず作品はちっちゃくなっていきますよね。ちっちゃく同じことの繰り返しで、しかも進歩のない繰り返しになっちゃう気がします。
これもね、すごく腑に落ちちゃった。自分の身の回りに引き寄せて、小さな創作活動をしているわけで。
いろいろすごい経験をもとに、書いた迫力のある作品を読むと、こういう経験をしないとこんなのは書けないなーとか思ったりする。
「思春期の圧がかかった作品」も、わたしはけっこう好きでその痛みを愛でるようなところもあった。
だから、この最後の、「進歩のない繰り返し」ということばには、痛いところをつかれたような気がした。
あ、それはやだな、って素直に思った。
自分は取り戻してるのかな、って思った。
進んでるのかなって思った。
痛みの中にとどまっているのは、ぬるま湯のようにむしろ心地よいことなのかもしれない。
健やかに。
冷水を浴びて、熱湯におののきながら、ぐらぐらゆれながらでも動いていたいな。
健やかに。
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コメント
海のさま> そうそう、ぐーん! とね。
投稿: しづく | 2012/04/09 23:10
私も健やかに
ガンガン足掻きながら
ぐーーんとしていきたいです!
(うまくいえなくてすみませんm(__)m)
投稿: 海の | 2012/04/08 22:58