読書ノート 『なぜ君は絶望と闘えたのか』
1999年山口県光市で起きた当時18歳1ヶ月の少年による凶悪な殺人事件が、2012年2月最高裁により死刑判決が確定した。久しぶりにTVで会見する本村氏のゆるぎない姿に改めて、事件を振り返りたくなった。
ずっと前に録画していた、WOWOWドラマW「なぜ君は絶望と闘えたのか」を見る。前編、後編と長くてずっとみそびれていて、前編だけでもと思ったら、ちょっと倍速にしつつ全部みてしまった。
これは光市母子殺害事件をもとにした、同名のノンフィクション小説をドラマ化したもの。登場人物は全部仮名におきかわっているが、それ以外は事実に則したものとなっている。
ニュースやインタビューで見る本村さん(ドラマでは町田さん)は、いつも自分の考えを明確に話せる強い人という印象があったが、やはり何度も死のうと思ったり、仕事もやめようと思ったり、妻との思い出の曲を街中で聞いて、号泣してしまうような方だった。
彼の勇気ある「いまの司法はおかしい」という発言は、被害者や被害者家族の立場がないがしろにされている問題を明らかにして、政府をも動かした。そしてその行動が、多くの支援者をも動かした。
また、このドラマで、ずっと寄り添って取材をした記者(原作本作者)と本村さんとの交流が印象的だった。本村さんは、山口市に住んでいて、実家は北九州。記者は東京にいるが、何度も取材して、励まして、心を開いて話を引き出している。この話は、事件が起こった1999年に起訴があり、2008年死刑判決(その後上告)まで9年ほどひとつの事件を追いかけている。記者、というもの、ノンフィクションライターはそういうものだ、と言われてしまえばその通りなのだが、プロフェッショナル魂には舌を巻く。
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このドラマの原作が、門田隆将氏『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』新潮社2008。
プロローグは、本村さんが記者に「絶対に殺します・・・」とつぶやいたシーンから。
わたしがこの事件と、本村さんを知ったのが、TVの報道で、「(少年法によって司法が死刑にしないのなら、)わたしが殺します」と言ったのを目の当たりにしたときだったからだ。彼の主張は真っ当で、同じ立場だったらわたしもそう思う。そのショックの大きさは想像もできない。彼が辞表をかいたり、自殺しようとした気持ちも痛いほど伝わる。
本村さんは多くの人たちに支えられて、絶望と闘った。でもそれは、本村さん自身が「信念」という太くて高い柱を立て、掲げ続けた結果だと思う。その旗印に、全国犯罪被害者の会が集い、政治や司法を動かし、「犯罪被害者等基本法」ができた。
被害者や遺族がすべて本村さんのように動けるわけではない。でも、その被害者や遺族の生きる道ひとつの道を示してくれた。何ができるか、考え続け、あきらめなかった信念の輝きはまぶしい。
本は、ドラマでは省略されているところが、細かくレポートされていて判決文などもきちんと掲載されている。
ドラマは、記者と町田さんの絆が強くでているが、本の中では記者(作者)はほぼ黒子に徹している。
作者は、犯人のもと少年にも面会して様子の変化も書いている。死刑宣告を受けなければ、この変化はなかったのかどうか。少年犯罪、死刑の是非、いろんなものへの問題提起をした、本作品は渾身の記録だと感じた。
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