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2012/03/18

日曜美術館 ゆるむ・ひらく・アートの旅~青森編~

日曜朝9時からのEテレ日曜美術館をいつも楽しみにしているが、今日は特別編だった。

ゆるむ・ひらく・アートの旅~青森編~と題し、雪の青森へ須藤元気さんと水野美紀さんが2つの美術館を訪れた特集。

なぜ青森? なぜ真冬? と思った謎は見ているとまもなく解ける。屋外の彫像は雪をまとったときに、別の表情をみせてくれる。

須藤元気さんは、青森県立美術館で、まずはシャガールの舞台絵なるものに対面する。
舞台の背景に掲げられる幕のような布に描かれた大きな作品が、三面に展示されたひろびろとした部屋。
馬や浮遊する人物など、夢の中の世界。
須藤さんは、「頭で考えて描いてない」と感想をもらす。

シャガールの絵は、細かいつじつまなんてまったく合ってない。だから夢をまるごと写しとったような感覚が生まれる。包み込んで、ひっぱって、不思議な世界に引き込まれる。

もうひとつの印象的な作品は、奈良美智の「あおもり犬」。青森県立美術館に写真がある
これが屋外に設置された効果は、真冬に浮かび上がってくる。
足元に、うなだれた頭に、こんもりと雪が積もって、じっと耐えているような、それでもそれを乗り越えて達観しているような表情になる。
まるで傘地蔵を思わせ、おもわず手を合わせるご老人もいるらしい。半眼の表情も、なにかを背負っている姿勢も、雪をかぶった姿をみたら、おもわずうなるものがあった。
作家はこの犬が雪を抱くことを想定していたんだろうか。いや雪がなくても、青森に暮らすことを形で表したのかもしれない。そこに雪が加わってさらに作品に輝きをもたらしたかのような。

女優の水野美紀さんが訪れたのは、全国からファンが訪れるという十和田市現代美術館。エントランスの4mの女性像が見下ろしてくる。
「ザンプランド」という作品をつくったアーティストの栗林隆氏がメンテナンスのため、訪れていてお話を聞けた。
栗林氏は、「ボーダー」を自分の中のテーマにしており、こちらの作品も、下の真っ白い部屋から、椅子に上って見る湿地帯のコントラストが鮮やかなふたつの世界を表している。
美術館のサイトでも、湿地帯の写真は出してないのであまり書くのは遠慮しておこう。
みてるこちらも、「おー!」となる。

水野さんは、「自分の感覚をぎゅぎゅっと押してくれる、広げてくれる」という感想を話していた。

はっとさせられたり、自分の常識をひっくり返してくれたり、アートと出会う楽しみは、たしかに「刺激」という要素はあるなと思う。
わたくし事だが、一見、不可解なものを見せられた時、最初は感性で見るのだが、だんだん意味を求めてしまうことがある。意味が見つかると安心しているんだろう。意味がわからないと気持ち悪くて、なぜわからないのかがきになったりする。

「考えるな。感じよ!」と言ったのはブルース・リーだったか。

けっきょくは、意味が見つからないと、=わからないと認めることになって、そこからまた感性で見ることにもどる。
言葉のない世界に自分を浮かべてみる。
先のシャガールは、そうとらえているような気がする。

わからないまま、とおりすぎるのもありなんだろう。時間がたつと変わるものもあるかも。
今の自分のフィルターで見てるから、ひっかかるものはそのときによって違う。
味覚も変わっていくように、好きなもの、見えるものも変わるのかもしれない。

作品と対話する楽しみ、わたしもアートの旅を続けていきたいと思った。

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コメント

◇kiccoroさま~
録画を見て再訪してくださったのね。
あははー! でしょでしょでしよぉ~~!
雪の帽子みごとだったです~!
美術館のサイトの、平常時?の写真と比べたら、鳥肌ものでした。

奈良美智氏は十分世界的な評価をされてる方だけど、可愛いシュールさは感じるけど、いまひとつわからない人のひとりでした。でもあの「あおもり犬」には衝撃を受けました。自分の中では、今まで見た中の彼の最高傑作ではないかと思いました。

アーティストとパトロン。
きっとほかの世界でも言い方は違ってもそういう支え合いってあるような気がします。
パトロンほど生活すべては支えられなくても、細かいところで応援というか、そういう「ファン」を持てるということが力のひとつなんでしょうね。

ツイッターなんかでは、村上隆氏が、いろいろ会社組織的な運営を模索していますね。誰かを待つのではなく、自分たちで起とうとしている姿は、いろいろ言われるみたいだけど、やっぱりすごいことじゃないかと思います。

投稿: しづく | 2012/03/19 21:32

◇kikkoroさま
 わたしは青森美術館なるものも、現代美術館も知りませんでした~! 地方美術館を巡るのも、旅行の楽しみですね。
 大野一雄は何回かTVなどで見たことはありますが、ビナ・バウシェははじめて。YouTubeでチェックしてみました。音楽がクラシックから現代にいたるまでどんどん広がってることを思えば、また舞踏の形も自由になっていいわけですね。
 感性を共有。そうね、ぶつかるより寄り添うと楽になるかも。ぶつかったり、寄り添ったりしながら化学反応を楽しむのもありかもですね。

投稿: しづく | 2012/03/19 21:21

あおもり犬の雪の帽子! あれは作れない~~(笑)
すばらしいインスタレーションです~~~!!!
冬ならではの青森アートでしたね。

一人で感じるだけでは、でも広がってはいかないから
広げていくためには明文化することも必要で
それをしてくれる批評家なりパトロンが現れるということも重要。
アーティストにとっても鑑賞者にとっても、それが「いま」か「いつか」かは
過去の芸術家を眺めてみれば・・・・興味深いですよねえ。

投稿: kikkoro | 2012/03/19 10:56

青森美術館では、昨夏、印象派の謎解きの展覧会もしていましたよね。
行きたかったなあ。いつか行きたいと思ってます。
地方の美術館が意欲的な催しをするのはわくわくしますね。

私はピナ・バウシュの舞踊を始めてみたとき
やっぱり意味を求めてしまったので、しばらく悩みました。(笑)
大野一雄も吉増剛造もそう・・・。
でもね、ある時期から、意味ではなく感性を共有することでいいんだと思ってから
楽になりましたよん。

今朝のEテレ日曜美術館、録画したのであとから見てみますね~。

投稿: kikkoro | 2012/03/18 17:22

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