【読書ノート】 『マリアビートル』 伊坂幸太郎
描写のすぐれた小説というのは、一番頭が活性化する気がする。
マジック・アイという本って知ってる?
平面に描かれたぐにゃぐにゃの写真をある見方をすると、立体的に見えるの。
あれに似てる。
読んでるのは、文字のつながりのはずなのに、頭の中に登場人物の顔が浮かび、動き出して、暴れだす。
映像が入ってしまうと、きめつけられて、ここまで頭が浮き立たない。
やっぱり本が一番好き。
はてさて、東京駅から出発した東北新幹線が盛岡につくまで、たくさんのプロの殺し屋が右往左往。
死体がてんこもり。
でも最後落とし前がついて、読後感はすっきりさわやか。
章ごとに登場人物の視点で語られるスタイル。
なかでも天使の顔と悪魔の心を持った少年の、人をコントロールする狡猾さは身震いするほどみごとな表現。
取り巻きを恐怖でしばりつけ、なんの落ち度もない友だちや、教師、まわりの大人たちを思い通りに操る様子は、理由があって殺人する殺し屋よりも理不尽な存在に見える。
「なぜ人を殺してはいけないのか」と大人に問い続ける彼は、人を愛したこともないのだろう。
ついてないまぬけな殺し屋、七尾の存在が、殺伐とした中にいいお口直しになっている。
順番違っちゃったけど、『グラスホッパー』も読まなくちゃ。
少し前に読んだ『月と蟹』も人間描写の筆力がすばらしいと思ったけど、読み終わった後までざらざら感が残ってしまった。現実が厳しいときは、せめて本の世界は、胸のすくものであってほしい。なんか勘違いしちゃって、はりきっちゃうような楽しいものを見せてほしい、と願ってしまう。
傑作。
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