それは膨大な原稿をデータ入力することからはじまった、佐々木祈美(ささき・きみ)さんの五行歌集がとうとうできあがり、見本が届いた。
編集のひさこちゃんの地道な作業の結集。
草壁先生も、選をしながら入力に加わった。
スーツケースにびっしりと残された遺稿たち。
薬ぶくろから小さく切った紙切れがでてきて、細かな字で歌が書いてある。
手帳の両面に、ぎっしり。
ちらしの裏面。
88歳で五行歌をはじめ、亡くなる92歳まで、どれだけ多くの作品を書かれたことだろう。
秋田に生まれ、足利学校に学び、満州、樺太と波乱の人生の中、磨かれた感性。
この生き方のかっこよさや、理知的なさまを感じた時、けっして年寄りくさい装丁はすまい、と誓った。
あの膨大な原稿をみたときから、「祈美さんは、文字の人だ」と感じていた。
ならば、タイポグラフィで勝負しようと思った。


タイトルが歌の一部だったのだが、どうしても歌全部をカバーに載せたくなった。
そこで裏側に、序奏のようなシャドウでいれた。
「愛」は書体も色も変えた。
帯には、祈美さんが「ひびよき日」の表紙を飾った写真を入れた。
この写真を見て知ってる方が多いように思い、その方たちに「おっ」と思ってもらいたくて。
一度やってみたかった、カバーと帯を連動させるデザイン。


カバーをとっても、情熱が燃えてるように。でもちょっとかっこよく、悩んだ挙句、深緋を選んだ。
帯と完璧に色を合わせるため、どちらも印刷に。
本扉に、遺稿からみつけた祈美さんの直筆をのせた。
祈美さんが、そこにいらっしゃるような気がした。一度もお会いできなかったのに、なんだか涙が出そうになる。
苦しまないでは、完成できない。
でもいま手にとれば、わたしなりのシンフォニーが鳴ったような気がした。
心より、天国の佐々木祈美さんに捧げます。
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