読書ノート 『まほろ駅前多田便利軒』
三浦しをん著 直木賞受賞作。文藝春秋 2006
まほろ駅前で便利やをしている多田が、預かったチワワを見失い、出会ったのは地元高校の同級生行天だった。
金なし、家なし、わけありの行天は、多田の事務所へころがりこむ。
便利軒にもちこまれる騒動を、介護、家庭内暴力、ネグレクト、麻薬、など現代社会の縮図を織り交ぜながら描いていく。
多田と行天は、じぶんたち流の掟で、難題をばっさばっさとさばいていく。同時に行天の持つ隠し事や、多田の心の闇が見えてくる。暗い部分を描きながら、この作者は、暖かく人の心をすくいあげてくれる。
三浦しをんの世界は、わたしのツボを押す。
たぶん、彼女もわたしもどっかロマンチストなんだろう。
チンピラにしか見えない男も、負け組みの男も、どこかに人助けのヒーローの顔を持っている。
命知らずの行天と、まじめな多田の組み合わせは、実は典型的なものかもしれない。
(たとえば、陰陽師の安倍晴明と源博雅とか・・・)
それでもこんな男たちが、どっかにいるといいな、こんなふうに助けられる人がいるといいなと思える私は、やっぱりおめでたい。
そして、そんな夢を見せてくれることこそが、文芸(もしくはアート)の力だと信じているのだ。
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