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2007/05/15

読書ノート 『空中ブランコ』

『空中ブランコ』 奥田英朗 文藝春秋 2004

家の中に落ちていたのを拾って読んだ。借りてきた娘がおもしろいよと言っていたから。
うちの家族は、全員すごく本を読む。
図書館でもばんばん借りてる。
おもしろそうな本なら、薦めあうし、期限内なら貸し借りする。最後に読んだ人が返却するルールで。

これは、短編集。2004年直木賞受賞作。シリーズになっていて、前作は、『イン・ザ・プール』。こちらは未読。
主人公は、ちょっと変った精神科医、伊良部。この人がなんとも人をくった人物。
伊良部のもとへは、ちょっと疲れた患者、(それも社会的にはとても地位や名声のある人ばかりが)訪れ、伊良部の子どもっぽさとか、破天荒な行動に面食らっているうちに、いつのまにか癒され、自分を取り戻していく。
重いテーマなのに、なんとも軽い。おもしろい。
物語のおちも効いて、ほろりとさせる人情話に仕上がっている。
ほろりどころか、ぼろぼろ泣けたのは、最後の「女流作家」
スランプに陥った女流作家が、受診する。
もともとの落ち込みの原因は、自信をこめて、渾身の力をふりしぼって書いたまじめな力作がまったく売れず、評価されず、もっとぺらぺらな恋愛小説ばかりが売れて、それを書くのを求められることへの嫌気が根本にあった。
落ち込んでる彼女に、編集者の友だちが「あなたは恵まれている」と怒涛のように泣きながら訴えるシーン。

才能ある若手監督が、どんなにいい作品をつくっても客が入らないと、たったの二週間でレイトショー行き。 ここで報われないと、この人だめになると思う、と。・・・(中略) せめて自分はインチキに加担だけはすまい、と誓った

彼女の激白は、作家にも担当編集者にも、じーんと沁み込んだ。
そして作家もじょじょに回復してくる。
伊良部の診察室の、セクシーな看護婦(あえて婦)が、「わたし、小説読んで泣いたの生まれて初めて。またああいうの書いてください!」ということばに、最大の心の支え、「読者」を忘れていたことに気付く。

人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。その言葉を扱う仕事に就いたことを自分は誇りに思おう。

人を傷つけるのも、人だけど、
人を癒せるのは、人でしかなくて。
誠実な仕事を、ひとりでも見ていてくれて、ことばをもらえたら、
また力をもらえる。
いい仕事は、きちんとほめよう。そのためのお金も払おう。
そうしていけば、世の中は、いい仕事で満たされる。
そんな夢を抱いている。

you may say I'm a dreamer
but I'm not the only one
I hope someday you'll join us
and the world will be as one

                           Imagin/John Lennon 

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