地下鉄に乗って
特別版『地下鉄(メトロ)に乗って』 浅田次郎著、徳間書店 を読んだ。
吉川英治文学新人賞をとったこの初版単行本は1994年だという。
浅田氏の小説家としての路線変更にも大きく影響したというこの作品は、幼いころから小説家をめざしたという物を見たり聞いたりする姿勢、時代の当事者それもすぐれたストーリーテーラーとの出会い、いろんなものが絶妙な調合で産み落とされた傑作だ。
映画化されることによって、この特別版も出されたのかと思うが、本編のあとに、『「地下鉄に乗って」縁起』、と題された書き下ろしエッセイが何本か収録されている。
このエッセイとあわせて小説を読むと、この作品そのものが、私小説の部類に属するもの、特に父へのオマージュだということがわかる。浅田氏の小説家としての軌跡も少しわかる。
物語は、時代の描写の確かさ、それぞれの登場人物の色濃さ、物語を読みながら、自分も共にタイムスリップし、息をつめて目の前のできごとを見せられる。
貧しさや、戦争に翻弄されながらも、生き抜く人々がかっこよくって愛しい。
今の時代に、もう一度読み直す必要がある。きっと誰かが強くそう願って、再販され、映画化もされたような気がする。
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