熱を伝える(本編)
私の好きな作家のあとがきに、よく登場する「石原ちん」「石原まーくん」なる人物。
名物編集者として有名な幻冬社常務、石原正康氏が先日のNHK「プロフェッショナルー仕事の流儀」に出演した。
笑顔はほんわかした人だ。ときどき見せる表情はとても厳しい。
彼はなぜ、多くの才能ある作家たちから親しまれ、信頼され、ベストセラーを生み続けることができるのか。
それは彼の人間くささにあった。
ほれこんだ作品の作家に、熱い手紙を便箋に何枚も書く。
夜中でも送られたゲラの感想はすぐ伝える。
仕事を離れて、飲みに誘う。
そしてそれら全てが、「作品のため」。
そしてその作品から受けた、「熱」を読者へ届けるために東奔西走する。
サイン会の企画、書店への訪問、広告、販売戦略・・・。
インタビュアーの住吉さんが、「作家と作品のどちらが大事なんでしょうか?」(正確ではないかもしれません)というようなことを石原さんに質問した。
「作品ですね。・・・・うーん。やっぱり作品なんですね」
作家と僕(たち編集者)の間に、作品がある。作品があってこそこの関係は成り立っている。
ちょっと意外な気がしたが、やがて大きく腑に落ちる。
とことん付き合っているのだが、べたべたな友だち付き合いではないのだ。
孤独な作家を、励まし、褒め上げ、影で支えるのも、いい作品のため。
作品を愛し、それを通じて、作品を生み出す作家を愛している。
そこを取り違えないところに、石原さんのすごさを見た。
「ちっちゃな握手」
筆が止まった作家へ、ぎっしりと手書きのはがきをだした。
「はがきの力を信じてるのですか?」
「はい。ちっちゃな握手って感じで」
作家は、そのハガキを机の上の見えるところへ置いて仕事をしていた。
孤独を照らす、小さな光がそのハガキにある。
石原氏のやってることは、すごく素朴で人間くさくて、暖かくて、何気ない、できそうで意外とできないことだった。
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コメント
◇いなだっちさま
>この関係って、持続的にしていくと、人によっては、自分の中に、権威的な幻想を抱くような気がする。
とってもわかります。
権威だったり、馴れ合いだったりするのだろうなと想像しております。
ぴしっと一本筋を通すこと、勘違いしないこと、謙虚で素直で素朴であること・・・。
自分に対しても確かめたいことばかりが浮かんでは消えていきます。
曲がってきたら、何度でも直したいと思いました。
自分の行きたいところだけをまっすぐ目指せば、曲がってもきっと直せるんだろうと思いたい。いや思ってます。
投稿: しづく | 2006/10/27 18:43
またまたひっかかっちゃったわ(笑)おほほほ。
>ほめれば、それは強く育っていくみたいなところってあるんじゃないかしら。
ここ、すっごく共感。
そう。人って、
ほめられて、自惚れて、
勘違いする人ばかりじゃない(笑)
多分、作家さんて、
作品に全力を尽くすから、
主観的に走りきった後、
「はぁはぁ……あれ!?ここはどこ!?」
って感じになっちゃうのかなぁと、
思ったりする。
で、石原さんのような方が、
「はいはい。大丈夫大丈夫。
ちゃんとゴールに来てますからね~」
って言ってくれて、
ようやく走ったこと自体に、価値を見出せるような。
すばらしいと思うのは、この関係が、
決して一過性ではなく、持続的なところ。
特に、石原さんのほうが、
自分に対して、
細心の注意を払っているんじゃないかしら。
だから、大事なのは「作品」と
最初におっしゃることができる気がする。
この関係って、持続的にしていくと、
人によっては、自分の中に、
権威的な幻想を抱くような気がする。
作家側、編集者側問わずね。
山田詠美さんのエッセイとかで、
本当によく出てくる石原さんだったので、
「あぁ、こんな人だったのかぁ~」と、
もうちょっと最初から見てかみ締めたかったです(笑)
投稿: いなだっち | 2006/10/24 09:07
◇いなだっちさま
>アナログなやり方
そうですね。それでしか生まれないものってやっぱりあるのだと思います。
あと、いいものをきちんとほめる、ってことも大事なんだと思った。ほめないと、細く弱くなってなくなってしまうかもしれない。ほめれば、それは強く育っていくみたいなところってあるんじゃないかしら。
山田詠美さんは、「一番この人が死なれたら困る」とおっしゃってました。また、「わたしの書いてるものって、ほんとにおもしろいのかなぁって思う。そういうとき、いい! って言ってくれると安心する」みたいなことも。
エイミーさんのような天才大作家でも、そんな気持ちになるんですね。肩組んではしごしたり、酔いつぶれた石原さんを気遣って、お店の人に「毛布くださ~い!」と叫んでいました。
わたしは詠美さんも、作品も大好きなので、なんとなく石原さんも好きになりました。
投稿: しづく | 2006/10/23 17:59
やっぱり、作品なのですよねぇ。
ここらへんあたりは再放送で見れました。えへっ!
山田詠美さんが、
飲み屋さんで何か語っていたあたりが、
よく見れなくて悔しかったです(くーっ!!)
別の作家さんで別の編集者さんとの
お話を
ある本で読んだのですが、
昔は、喫茶店に行って、向かい合って、
原稿用紙を編集者さんに読んでもらう時の
緊張感というか、勝負というか、
そういうことがよくあったそうなんですが、
(いい作品のための討論が、
タイムリーにその場で繰り広げられる)
今の若い編集者さんは、
FAX、メールで済ませる人がいるので、
真剣勝負(?)の場を、おろそかにされたりすると、
不安になるとか、書いていたような気がします。
便利さを否定はしないけど、
やはり手のぬくもりの大切さを理解している、
作家さん、編集者さんの情熱は、
読み手にもきっと伝わるのでしょうね。
簡単なようで難しいこと。
そういうアナログなやり方を、
お忙しいのはわかるけれど、
編集者の方々には、継承していってほしいですね。
いい作品が読みたいから(笑)
石原さんの情熱や、
作家さんたちの繊細さを見ながら、
そう思いました。
投稿: いなだっち | 2006/10/23 12:57